率直に言えない空気
いじめの背景

 いじめについて、皆さんはどう感じていますか。加害者を厳しく罰すればよいのだ、と考える人もいます。「自分の周りにいじめはないから関係ない」と思う人もいるでしょう。
 私はいじめの背景にある“空気”が気になります。いじめられている人は気持ちを抑え付けられているのですが、見ている人も言えない、加害者もゆがんだ形でしか気持ちを出せない。そこに共通にあるのは“気持ちを率直に出せない空気”です。

 毎日を一緒に過ごす集団の中で、思っていることを率直に言えなければ、居心地のよい人間関係になるはずがありません。さて、皆さんの周りには、率直に気持ちを出し合える空気がありますか?
 相手に対して感じていることがあるのに、何も言わずに黙っている。あなたにも、そのような体験があるのではないでしょうか。相手に抑え付けられて言えない場合もあるでしょう。
 一方、「言えば相手が不快じゃないかと考えて言えない。相手を心配しているのでなく、自分が嫌われたくないんです」と語ってくれた人もいます。自分で抑えてしまっているのです。

 「言ってもどうせ変わらないから言わない」と私たちは思いがちです。でも、率直に言えると、相手は変わらなくても、相手に対するわだかまりが減ります。そして、わだかまりがなくなっていくと、話は通じやすくなっていきます。
 「率直に話せば必ず伝わる」とは私は思いません。人と話していると、自分にとって当たり前の感覚が相手にとっては全然違うのだと気づかされることがあります。だからこそ、話すことが求められるのです。話すことで、互いの違いが見えることに意味があります。
 みんな同じように感じているなどということはないのです。人は皆感じ方や個性が異なります。違いが見えないのは、自分らしさを出せていない人がいるからです。

 いじめは厳しく問われるべきです。そこにとどまらず、背景にある安心感のない人間関係について考えてほしいのです。率直に話す人が増えれば、空気は変わるはずです。

  <2015.12.27 中日新聞「親子でホームルーム」『率直に話せれば変る』を改題>

戻る