自分がキライ

 「人に対し、はっきりものを言えない自分がイヤになる」と、A君は言います。人からこけにされたと感じても笑って流してしまう。そんな自分をふがいなく思ってしまうのです。でも、「気が優しいA君といると癒やされる」「一緒にいて安心感がある」「話しかけやすい」と、A君の性格に好感を持つ人もいます。
 このようなA君と対照的なのがBさんです。相手が気分を害するようなことも平気でズケズケと言います。ムードメーカー的な存在でもありますが、相手を振り回し疲れさせることもあります。Bさんは時々、人間関係に失敗して「人とのちょうど良い距離が分からない」「私は人の気持ちが分からないダメ人間」と落ち込みます。しかし、自分から話しかけるのが苦手な人にとっては、どんどん話しかけてくれるBさんは付き合いやすい人です。人間関係に積極的になれずにいたとき、Bさんの働きかけで元気になった人もいます。私も、Bさんから内面に踏み込むことをズバリと聞かれ、自分について深く考えさせられたことがあります。

 A君もBさんも、人間関係に不器用なところがあります。そして、その不器用さを自分で嫌っています。でも、本人が嫌がっているその性格だからこそ、大切な存在と感じる人もいます。もちろん、その性格を否定的に見る人もいるでしょう。しかし、すべての人から肯定されるなどということは、誰でもありえないことです。
 自分ではどんなにマイナスに思える個性でもそれが生きる場はあります。その人が、その時そこにいてくれて、本当によかったと思える場面があるものなのです。その人独特のデコボコがぴたりと場にかみあう様子は、さまざまな大きさと形の石で組まれた石垣を連想させます。どんな石にも、その石があったからうまく組めたと思える場所があるのです。
 自分を否定的に思うのもその人の個性です。そして、自分を振り返って悩むことで、その人の感じ方や考え方は深くなっていくでしょう。しかし、否定的な気持ちにとらわれ過ぎると、自分の持っている可能性をつぶしてしまうかもしれません。自分の個性を否定せず、それを生かす方法を考えることで見えてくるものもあるはずです。

  <2012.12.30 中日新聞「親子でホームルーム」>

戻る