自分はなんとかやっていける

 「こんなこともできないようでは、大人になって社会でやっていけない」と親から言われ続けて育ったという人がいる。「大人なので、今だったら(そういうことを言われても)耐えられるけど、当時はまだ子どもだったので本当に辛かった」とこの人は言う。それに、大人になってみて、「何かができないから生きていけないなんてことはない。人との関係さえあれば、生きていけるもんだとわかった」とも語ってくれた。「まなび場」で出会った若者の話である。
 「きちんと勉強しておかないと、この先ついていけなくなる」「今がんばらないと、後で取り戻すのは無理」「こんなことができないと、大人になって生きていけない」などと、先の不安をあおって大人は子どもを叱咤してしまうことがある。そう言われてもできない子どもには、自分は「ついていけない」「取り戻すのは無理」「生きていけない」といったメッセージだけが心に残っていく。それが、その人を、本当に、ますます、できなくさせていくこともある。
 「がんばればできるはず」と大人が思い込んでいることでも、その子どもにとっては人の何倍も何十倍ものエネルギーを注がないとできないことである場合がある。そのようなことに無理をさせるより、同じエネルギーをその子自身が意欲を持てる対象に注いだ方が、その子にとっては自信につながるかもしれない。エネルギーを使うのでなく、貯めることが必要な時期だってある。それに、本当に「今できなければ後で困る」のだろうか。ものごとができるようになっていくペースや順序は多様であり、今できなくても後でなんとかなることも多い。最後までできないままであったとしても、それで生きていけないなんてことはあまりなく、苦手を他の部分が補ってくれることもあるし、人の力を借りることだってできる。しかし、「自分はダメ」という感覚が強すぎると、生きていくのはとてもしんどいことになる。今何かができないことよりも、自分自身を信頼できる感覚を持てずにいることのほうが、その人が生きていく上での困難になる、と私には思えるのだ。
 不安をあおるのではなく、「自分はなんとかやっていける」という安心感や希望を若い人の中にしっかりと根付かせていくことこそ、私たち大人に求められている。
(2008.9月「ACNC News Letter Vol.14」掲載)

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