ジェフみたい!

 小4のとき、10ヶ月ほどアメリカで暮らしていた。年度末には学校行事で海辺のキャンプが予定されていた。キャンプ費用は親から出してもらうのでなく、自分たちで花の種を売ったりして積み立てるのだった。一人で近所の家を一軒一軒まわって種を販売したが、とても追いつかないので、親の知り合いに買ってもらったりもした。親達に協力してもらって学校でバザーもやった。バザーでチョコレートのカップケーキを売ったときのチョコの甘い香りをよく覚えている。

 おかしなこともあった。ある日曜日、担任のミセス·デービスが、僕とジョーにちょっとでかけようと誘ってきた。ジョーは近所のクラスメートで、ミセス·デービスから僕の友達になってあげるよう頼まれていたようである。僕たちはミセス·デービスの車に乗り込み、高速道路をぶっ飛ばしていった(彼女の運転は荒っぽく、後日ジョーが「クレイジーな運転だったよな」と笑っていた)。着いた先は植物園のような所だった。そこでミセス·デービスが館長のような人と何やら話しあっている。僕の英語力不足による誤解でなければ、僕とジョーの方を指しながら、「クラスの子達の理科の教材に使うので、植物を貸出して欲しい」と交渉していたように聞こえた。僕たちは小さな植木鉢を大量に車の後部荷台に詰め込んで帰ってきた。驚いたことに、バザーの日にこの植木鉢すべてに値札がつけられて売られていたのだった。

 このように準備してでかけたキャンプだったのだが、僕にはあまり楽しい思い出がない。アイスクリームを作ったり、フォークソングを歌ったりまではまあ良かったのだが。まず、なぜか僕の水着が見つからない。すると、僕の水着を履いている奴がいるではないか。みんなはとっくに海にでかけてしまって、宿泊小屋には僕と奴(名前は忘れた)との2人だけが残っていた。この男に「返せ」と言っても、へらへら笑っているだけだった。悶着のあと、結局水着は返してきたのだが、僕が海に入ったときには他の子達はどこかに行ってしまっていなかった。

 小屋に帰ってから、ある子がベッドの上から「スリッパを取ってくれる?」と僕に声をかけてきた。なぜかわからないのだが、僕はその子のスリッパを遠くに蹴飛ばした。僕の行為は部屋中の子達から非難された。このときマーサが「イチロウはジェフみたいなことをしてる!」と言ったのだった。マーサは、おっとりとした暖かい雰囲気の女の子だ。ジェフはといえば、みんなが嫌がることをわざとやるような子だった。彼はクラスのみんなから疎んじられていたのだが、僕には親しげに話しかけてきた。ユダヤ人であることにこだわりを持っていて、僕にユダヤの国旗やヘブライ語のことを教えてくれたりしていた。外国人である僕にシンパシーを感じたのだろう。

 あのとき、なぜスリッパを蹴ってしまったのだろうか。クラスの子達とかかわりあいたかったのだけど、言葉でうまく伝えられないことが多くて、あんな行動を取ったのかもしれない。人が嫌がることをやるような子どもを見ると、あのときの自分のことを考える。

  <2014.12月>

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