「つながり」の見える数学指導
学んだり考えたりすることは「つながり」を解きあかしていく作業であるともいえるだろう。「つながり」を見るために分析するのだが、分析だけに目を奪われて「つながり」を見失ってしまう傾向はないだろうか。もちろん、一つのことを掘り下げていけば、地下の深いところで他のことがらとつながっていることが見えてくる。様々な場所から学習を進めていった結果、だんだんとつながりが浮かび上がってくることもある。したがって、最初から「つながり」が見えているとは限らない。しかし、事物がつながっていることを意識しておくことは大切である。最近の授業で考えた例を振り返ってみたい。
現実世界とのつながり
数学は抽象化された体系でもあるが、現実世界とのつながりも深い。そのことに触れることで、数学に対するイメージも広がる。〈例〉刺激(音階、音量、明るさ、揺れ、等)が指数関数的に変化するときに人間は1次関数的変化と感じる。感覚器官が刺激をlogで変換しているわけである (感覚)=klog(刺激) 。したがって、物理量はlogをとることでわかりやすくなる。他にも、pH、放射性物質の崩壊時間、エントロピーなどlogを用いる事例は多い (entropy)=klog(状態の数) 。自然界ではかけ算が本質的な役割を果たしている(自然法則はかけ算で表される)のに、人間はたし算的な感覚を持っているということも面白い。
単元の枠にこだわらない
教科書では、もともとつながりあっていることを、理解しやすいように単元に分けて説明している。他単元とのつながりの中で考えた方が具体的にイメージが持てて理解が深まることもあるので、あまり単元にこだわり過ぎないことも大切だろう。〈例〉1/xlogxを積分するとlog│logx│となる。ここは置換積分の単元だからということで、計算だけできれば先へ進むのではなく、実際のy=log│logx│グラフを考えてみる。xに具体的数値を順番に入れていくことで、合成関数の意味やlogについても復習できる。さらに、極限は∞だが、グラフの上昇の仕方といえば、1目盛1 cmで宇宙いっぱいにx軸を伸ばしても、4〜5cm上がる程度ということも計算で確かめられる。logがいかにxを「圧縮」するかを実感できるし、極限についてのイメージも広がる。
直観的イメージをもつこと
AだからB、BだからC、...という個々の論理のステップがたどれることと、その事柄全体が「腑に落ちる」こととは同じではない。要素に分解してそれをよせあつめても、全体が見えるわけではない。論理や分析の重要性は大前提であるが、直観や総合を軽視すべきでない。公式(文字式)の証明→公式を適用した問題(具体的数値が入った計算)と教科書では進んでいくが、数学が得意ではない生徒にとっては、まず、具体的数値の入った問題に取り組んでイメージをつかんだ上で、抽象化された公式へと進む方が無理がない。また、式や記号だけではイメージを持ちにくいので、視覚的にとらえること、記号や式を日常用語に近い日本語におきかえること、なども工夫したい。すべての概念を直観的に説明できるわけではないが、直観的に把握しようとあれこれ考えてみる中で理解が深くなることもある。〈例〉数式や記号を日本語的に翻訳するには、英語を日本語に直すのと同様に右から読むということを理解させておく必要がある。関数を図式的に表現するときも、右から入力し左へ出力するようにイメージさせるとよいと思う。この方が合成関数の時も混乱が少ない。
〈例〉y= exのときy´=yであることから、図より、y=logxのときy´=1/x 。(図省略)
〈例〉logXY=logX+logY は、ax ax=ax+yを別の角度から眺めているだけであることを直観的につかみたい。具体的な数値計算をしながら、「かけ算の結果右肩に乗る数(log)=もともとの右肩の数(log)をたしたもの」などと表現してみたりする。(積のlog)=(logの和)は、複素数における(積の偏角)=(偏角の和)と同じ形であることも思い出しておきたい。
順序にとらわれすぎない
教科書は一定の順序にしたがって系統的に記述せざるをえないが、概念自体はもっと相互にからみあうような形でつながりあっている。個々人がそれを理解する仕方も教科書の順番通りである必要はない。どこかでつまづくと、もう先に進めないと思い込んであきらめる生徒がいるが、これも教師が順序や系統性にこだわりすぎることの弊害ではなかろうか。新しい事柄を教える前に前提事項の復習をやっても、かつて時間をかけても理解できなかった生徒にとっては理解できていないことを再確認するだけに終わりかねない。むしろ、前提ぬきに新しい内容を学びながらかつて学んだはずのことを捉え直すというぐらいのスタンスの方が、興味もわき理解も深まることがある。〈例〉三角関数が理解できていないので、複素数の極形式が理解できないと考える必要はない。距離rと角度θで位置が表示できること、直交座標(x、y)でも位置は表示できること、その2つの表示方法をつなぐ必要があること、そこで、(r,θ)を(x,y)に変換するための装置としてsinとcosを r・cosθ=x、r・sinθ=y と定義する。
〈例〉ベクトル内積計算から余弦定理を導きなおす、複素数の積は回転であることを出発点にして三角関数の加法定理を再確認する、一次近似式から微分係数を捉えなおすなど、本来の順序の逆をたどることで理解は深まる。