私とあなたは別の人間
  一人一人の違い尊重を

 「あなたの気持ちは分かるよ」と母親に言われて、Aさんは「どうして?」と首をかしげました。「お母さんに私の気持ちが分かるわけないじゃん。私とお母さんとは別の人間なんだから」
この言葉に、Aさんの母親はハッとさせられたと言います。子どもは親とは別の人間だということは、親よりも子どもの方が鋭く感じるときがあるのですね。
似たようなことは、先生と生徒の間でも起こります。Bさんは、先生から「君ならできる」と言われて、「何を根拠にそう言うのだろう?」と疑問に感じたそうです。「先生は自分にできたので、私にもできると思い込んでいる。自分の自信をもとに言っていて、私を見て言っているんじゃない」と思えたからです。皆さんも、自分は親や先生、友達とは別の人間なのにと言いたくなることはありませんか。
Cさんは、友達が他の子の悪口を言ったので、「そうは思わない」と応えました。以来「空気が微妙になった」と言います。友達同士なら同調するのが当然と相手は思い込んでいたようです。

一人一人の違いがきちんと意識されていなかったり尊重されなかったりということが、さまざまな場面で起こっているわけです。誰でも、知らず知らずのうちに人を自分と同じ、あるいは同じであるべきだと思い込んでいるときがあるのではないでしょうか。
 人が自分と同じように感じたり行動したりすることを期待していると、相手が自分の思い通りにならないことを受け入れにくくなります。そして思い通りにならない相手や気に入らない相手に、イライラしたり攻撃的な態度をとってしまうこともあるでしょう。こうした態度にブレーキがかからないとき、それはイジメになります。自分と人の境界があいまいだと、人を傷つけることにもつながるのです。

自分と相手との違いをはっきりさせることは、相手との間に高い壁を築くこととは違います。むしろ私たちは本当の気持ちを言えないという形で相手との間に壁をつくっているかもしれません。
いろいろな人と互いの考え方や感じ方の違いを話し合ってみましょう。大人と子どもの関係でも、子ども同士や大人同士の関係でも、人は一人一人全然違うのだという感覚を大切にしたいものです。

  <2012.9.30 中日新聞「親子でホームルーム」>

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